子どもが荒れる背景に。『困らせたっていいんだよ、甘えたっていいんだよ!』篠崎純子著

      2017/06/19

以前、小学生数人にパソコンを教えていました。その中の生徒1人A君が、いつも走ったり他の生徒のPCをいじったり、叩いたり、いじけたり、なかなか言う事を聞きません。一緒に遊びだす子もいるし、怒り出す子もいる。A君がいると、なかなか授業が進まないという、困ったクンでした。でも、パソコン教室を閉めると発表したとき、一番悲しんで涙を流したのは、そのA君だったのです。

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この本は、タイトルを見て、なんとなくそのA君を思い出したので手に取りました。

 

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本の概要

もともと新聞のコラム用なので、1話が見開き1ページで短く読みやすいです。内容は、公立小学校教諭の篠崎さんが体験してきた、小学校の子どもたちのリアルな生活の様子が、活き活きと、時に生々しく、痛々しく、けれど前向きに紹介されています。家庭が不安定なこども、病気を抱えているこども、発達障害のこども、学習障害のこども、いじめられている子ども、いじめている子ども。授業は成り立たないし、喧嘩は絶えない。ちょっともう、先生もこれ以上対応できません!!となった時に、著者が前向きに頑張ろうと思えたのはなぜか。
あとがきから一部抜粋します。

 

涙でぐちゃぐちゃの顔に、やっと私は子どもたちの荒れる訳を知るのです

担任が何人も替わるほど荒れていた二年生。その子どもたちを三年生で担任した私は、子どもたちの暴力・暴言を浴び、もぐらたたき状態でトラブル勃発の毎日。(略)夜遅くまでかけて準備した理科の教材はあっという間に壊され、体育は乱闘また乱闘。誰かがけんかをし、誰かが泣き、誰かが教室にいないという状態が、私の心を傷つけていきました。教室でカタッと音がするだけで、何か悪いことが起きるのではと、ドキッとするようになりました。

私は次第に職員室に行けなくなりました。子どもを指導できない甘い教師と思われている、心配してくれる声すらも私を責めているのではないかと思いこんでしまったからです。(略)

ゴールデンウィーク明けには、もう学校には来られなくなるかもしれないと、教室も更衣室も片付けておいた五月一日。「俺はみんなを殴りたくない。でも、一発殴ると、俺が俺を止められなくなる」とレオは泣きじゃくりながら私に訴えました。

その涙でぐちゃぐちゃの顔に、やっと私は、子どもたちの荒れる訳を知るのです。
子どもたちは、からっぽのランドセルの中に、重たい生活現実をぎゅうぎゅうに詰め込んで学校にやって来ることに気づくのです。(略)

子どもたちは、「荒れる」という行動で、真っ当に生きたいという思いを必死に伝えようとしているのではないだろうか。社会の中にうずもれてしまいそうで、自分は「ここにいるよ」と存在表明をしている子どもたちに、私は応答する一人になれるのか。いえ、なりたいと思いました。

"あとがき"から一部抜粋 (p200-202)

 

ここで出てきたレオ君は、クラスメイトをよく殴る男の子でした。いつも喧嘩ばかりする問題児。でも、泣きながら彼が話したのはこんな内容だったのです。

 

「とうちゃんが会社をやめたら、家で酒を飲むようになった。最後の一杯になった時、兄ちゃんと俺は隣の部屋に逃げるんだ。でもね、とうちゃんがかあちゃんを殴る音がしてくる。音がやむ。もうかあちゃんは大丈夫かなと思うと、また音がするんだ。・・・・先生、おれは弱虫だ。かあちゃんが殴られている音がしてても、寝ちゃうんだよ。俺は殴りたくない、でも一発殴ると、俺が俺を止められなくなる」 (第一部 荒れた学級 p10-11)

 

第一部 荒れた学級

レオ君だけでなく、第一部で紹介される「荒れた学級」の子どもたちは、1人1人がそれぞれの事情を抱えています。父親が浮気して出ていき、うつ病になったお母さんを支える子ども。父親が何度も変わり両親から叩かれる子ども。もしかしたら一緒に卒業できないかもしれない、重い病気を抱える子ども。離婚した両親に遠慮して本当の気持ちを言えず、隠れて大泣きする子ども。何でも100点でないと両親・祖父母全員に叱られ、ストレスを抱える子ども。親の会社が倒産する子ども。父子家庭で身寄りは父だけなのに、父親ががんになってしまった子ども。

正直、こんなに大変な問題を抱えた子どもたちが、ここまで1箇所に集まるクラスって、本当にあるのかな?と疑問にすら思いました。1人1人の抱えるものが大きすぎます。

でも、思い返すと、私の時にもありました。小学の時はそこまで多くの事はなかったけど、中学の時はいろいろ思い出せます。1年のときは、学級崩壊になって先生が学校に来られなくなった事。気がつくと同級生が刑務所に入ったと聞かされた事。万引きをしてつかまった人。両親が離婚して祖父母に育てられていたけど、施設に移っていった友人。まあ、私のは中学だしいいとして。

著者の篠崎さんは、そんな子どもたちに真摯に向き合います(体当たりで全力を出して!というイメージです)。そして、子どもたちも、重い現実を抱えながらも、日々をたくましく生きていきます。

 

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『困らせたっていいんだよ、甘えたっていいんだよ!』では、そんな子どもたちと先生の日常をそのまま切り取って紹介しています。子どもが話したこと、その時の先生の対応。そして、その後何か変化はあったのか。など。

分析などはありません。でも、子どもたちが何を話し、どう行動していったかの変遷をみると、「ああ、こういう言い方をすると、気持ちが伝わるのか」という事や、ああ、こんな事をするのには、訳があったのだ、、、という事が分かります。

理屈や論理ではなく、実践で得られるものが、ここにたくさん紹介されているのだなと思います。

 

 

冒頭に紹介したA君は、父子家庭でした。お父さんは厳しくて、よく怒鳴られていました。A君はいたずらっ子だけど根はとても優しくて、友達が大好き。教室の時も、ただ友達と遊びたくてうずうず。パソコン好きだけど、でも友達と遊ぶ方が好き。でも加減がうまく分からなくて相手を怒らせてしまい、悲しくなっては相手をひっかいたり叩いたり、しまいには部屋の隅っこに隠れて出てこなくなったり。お母さんに会いたいという気持ちも伝わってくるし、構って欲しいという気持ちも伝わってくる。

私はちゃんと受け止めてあげられたのかな。よく分かりません。ただ、結局のところ、今はもう関われていないという事が気にかかります。

 

感想と、読書をおススメしたい人

学校が荒れている、荒れている子どもがいると言われる。その背景には、何があるのでしょう。もしかしたら、背景を理解することでできる事が広がるかもしれません。

担任の先生を責める?荒れている子を追い出す?
そうではなく、まずは何が後ろに隠れているのか、考えてみないと、と思わされました。

教科書的な話ではなく、学校で何が起こってるのかを具体的に知りたい方。
小学生の子どもさんがいる親(うちは長女が今年から小学生!)。
先生の苦労を垣間見てみたい方!

ぜひ読んでみてください。
笑いあり、涙あり、重苦しくもなり。人生について考えられます。

 

 

※第二部 女子グループが抱える問題、第三部 発達に困難を抱えた子どもたち。はまた次回、、、。つい一部だけで長くなってしまいました。

 

 

 

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