なんのために医者をするのか。外科医の仕事を知る〜『医者になりたい君へ』須磨久善

      2017/05/30


 

私には2人のこどもがいます。5才の娘と2才の息子。子どもができる前は、医療に関しては殆ど知識がありませんでしたし、正直興味もありませんでした(すみません。今はたくさんお世話になってます)。自分が病気になった時も、病院に行ったり行かなかったり。治ったらそれでおしまい。やる事はたくさんあるし、元気になったからいーやっ!程度にしか思っていませんでした。

でも、子どもが喘息になってから、医療に関する意識が変わりました。何度も呼吸が苦しくなって夜間救急に駆け込み、最終的に入院をした娘の姿を見て、「もっと自分に知識があったら」「本当はもっと早く助けてあげられたかもしれない」と思ったのがきっかけです。そこから、喘息についてはもちろん、医療についてももっと知りたいと思うようになって、色々な本を読むようになりました。で、今回の本は、お医者さんは何を思って医者をしているのか。に興味があって手に取ったのがきっかけです。

 

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「14歳の世渡り術」シリーズとは

この本は、河出書房新社出版、14歳の世渡り術シリーズのもので、中学生に向けて作られた本です。なので、分かりやすい!!すぐ読める。専門用語とか難解な言葉とかなし。でも、必要なポイントを押さえています。14歳の世渡り術シリーズの企画意図は、以下ということでした。

 

目の前の問題を「世渡り」する手段を提供しよう。そこを乗り越えれば、遠くを見渡す余裕が生まれるはずだ。その思いが今シリーズとなった。ラインナップはすべて、著者の体験や実践方法から学ぶ構成。(略)世渡り、実践、という武器を手に入れて、世界に向き合う怖さが少しでも減れば、またその助けとなるシリーズになれば、と思っている。 (河出書房新社 編集第二部 村田佳奈美さん)

編集担当者発25時「14歳の世渡り術」シリーズ/全国書店ネットワーク

 

『医者になりたい君へ』の概要

『医者になりたい君へ』副題は 『心臓外科医が伝える命の仕事』。ささっと読めました。集中する時間があれば、数時間で一気に読める内容です。

著者は須磨久善氏。どんな方かは[須磨久善/wikipedia]でも見ていただくとして。簡単に言うと、心臓のバイパス手術の手法を改革したり、バチスタ手術を日本で初めて行ったり、そのバチスタ手術をより改良して生存率を高めるなど、心臓外科医として世界的に認められた実力派の先生です。プロジェクトXの題材になったり、チームバチスタの監修をしたりと大活躍です。

中学生用ということもあって、医療用語はほとんど出てこないか、または出てきても簡単なものだけで、注釈もついているので、医療現場の経験が描かれていてもすっと理解できます。

外科医として必要な考え方や気持ちの有り様。手術をするにあたりどのような準備が必要で、どうやって自分に自信をつけるのか。手術に必要なチームプレイ。しかし最終的な責任者は執刀者であり、個人のリーダーシップが重要であること。自分の執刀した人が死ぬかもしれない、という手術する上でで避けてとおれない可能性、その怖さをどう克服して手術に臨むか。99%の成功率としても、1%は亡くなってしまうその怖さについて。

 

個人的に心に残ったところを数カ所。

「第3章 怖さとの闘い」

「神に祈る」手

  • 10年あまり前に、テレビ番組が僕のことを取り上げてくれた
  • 第一線で活躍する”仕事人”が困難と闘い、逆境を乗り越えた方法を紹介するドキュメンタリー
  • 放送された時、名前の前に「神の手」とうい冠がついていた
  • 本当は外科医の手は「神の手」ではない。むしろ「神に祈る手」だと思う
  • 医学が進歩してどんなにたくさんの事が分かっても、それ以上に分からない事がたくさんあって、神様だって悪魔だってやってくる
  • 「神頼み」というと無責任に聞こえるかもしれないが、神様に願いを聞いてもらうために僕が信じ込んでいる事がある。それは、どんな逆境に立たされていても、人間には自分の意思で最後までできることが二つあるということ。「諦めないこと」と「裏切らないこと」
  • 悪魔がどこからやって来るか全く分からないが、「結局のところ、おまえは神様じゃないんだよ」と思い知らせるために来ているのではないかと思うことがある。人の命、生き死にをコントロールするのは決して人間じゃないんだよとでも言いたげに。

99%の成功率でも50人を亡くしている

  • 成功率99%でも5000人手術で50人が亡くなっている
  • 非常に長い時間をかけて濃厚に関わってきた人が死んでしまったわけです
  • 研修医時代に女性を看取った時、「医者であり続ける以上(略)、これからどれくらい死の場面に立ち会わなくてはならないのだろう」と思った。
  • 40年近くたって、よく耐えてきたもんだと思う。

第5章:挑む心を育てよう

子どもたちに医療の現場を見せる ー 「原点」の発見

  • 医者ははっきり言ってものすごく辛い仕事
  • 自分の人生の中で、目の前でたくさんの人の死に目に会う。自分がメスを入れた人が死ぬ体験をする人は、医者しかいない
  • 患者全員を助けることはできない。「お前がミスしたせいじゃないか」「ここへ来なけりゃよかった」と怒鳴り散らす家族もいる。でも歯を食いしばり、次の日も次の日も、やり続けなくてはいけない
  • 何かをやって生きていくためには、「なぜそれを目指したか」という原点を自分の中に明確に掴んでおくことが必要
  • 「原点」を持った場合と持っていない場合では、医者として生きて行く強さが全然違う

 

医者になりたい君へ

  • 医者になるために、一番大切なのは「原点」
  • 必要な資質は、何をおいても「責任感」
  • 人の命を預かる責任は重い。「次は頑張ります」はない。
  • だから、絶対に大丈夫と思えるまで最前の努力をするとともに、自分の意思でできる二つのこと「諦めないこと」「裏切らないこと」を貫き通さないといけない
  • 「責任感」とは何か。医大で6年間勉強して理解できることではない
  • 医療の本質を自覚して、自問自答を繰り返して、しっかりと自分の原点を見出して歩み続けてゆく過程で身につく
  • この本がそのきっかけとなり、あるべき姿に気がついて貰えれば嬉しいです

 

目次

  • はじめに
  • 第1章:心臓は愛しい臓器
  • 第2章:外科医はアスリート
  • 第3章:怖さとの闘い
  • 第4章:救えなかった命
  • 第5章:挑む心を育てよう
  • おわりに
  • あとがき

 

感想として

原点を見つけるきっかけ作りが必要

私はだいぶ、のほほんと過ごしてきたなと思います。小さいころに交通事故にあって死ぬ目にあったり、大やけどをおって何週間も入院したり、川で泳いでいて岩に顔面をぶつけて入院したり。親が色々な病気になったり入院したり失明の危機とかあったりしたけど、なんだかんだマイペースに生きてきたと思います。

著者は「原点」が大切。と説いてますが、その「原点」を見つけられずに悪戦苦闘した時期もありました。私は結局何をしたいんだろう?何になりたいんだろう?仕事は何を選べばいいの?一生涯かけてやりたいと思える何かが欲しいのに、それが分からない!!

結局、私にはそれが分からないまま、今を過ごしている気がします。または、まだ探し続けているのかもしれません。

もしかしたら、これまで、原点となるほど強烈な経験をしなかったのかもしれません。原点があれば、何をするにも強い意思を保てるようになるでしょう。ということで、子どもたちには、いろいろな経験をして欲しいなと思います。私はそのいろいろな経験ができる環境作りをしようかなと。

 

この本は外科医の仕事内容とプロ意識を知りたい人に

この本は「外科医」の仕事内容を知るのに、最適な本だと思います。外科医としての心構え、大切な意識。注意すべき点。

著者は大人の心臓手術がメインですが、何人か川崎病患者のこどもの手術もしたと書いてありました。私の娘は4歳の時に川崎病で2週間入院し、今も時々病院にいって心電図や心臓エコーで検診をしています。入院した時は、ガンマグロブリンを使ってやや肥大した心臓の冠動脈を元の太さに戻すことができました。でも、もし戻らなかったら?もし川崎病ということが分からなくて(実際なかなか診断がつかなかった)、治療が遅れて、結果若年性心不全や心筋梗塞になっていたら?

そう思うと、ぞっとします。その時は娘は外科医の先生にお世話になっていたかもしれません

 

どの職を選んだとしても、その道のプロとして責任感は重要だし、プロ意識を持って携わりたいです。が、医師の仕事は人の命を預かる仕事です。外科にしろ内科にしろ、判断を誤ると命に関わります。普通の仕事は、間接的に誰かの命に関わることはあっても、直接関わることはないでしょう。

私は患者として随分色々なお医者さんにお世話になっていますが、患者としても信頼できる情報を得て、視野を広げ知識を蓄え、医師の言うことを信じきるのではなく、自分で考えられる患者でありたいと思います。※本にも書かれていますが、色々な医師がいますので

 

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